CFD解析（数値流体解析）は、鉱山換気やトンネル換気、産業用送風システムにおいて、空気の流れを詳細にシミュレーションし、設計や運転条件の最適化に活用される強力なツールです。従来の換気設計では、通風網計算により各坑道の風量や圧力を把握する方法が主流でしたが、局所的な渦やよどみ、複雑な空間での風速分布までは十分に評価できない場合がありました。CFD解析を用いることで、坑内交差部・採掘空洞・大断面坑道・機械配置周辺など、三次元的に複雑な領域の気流を可視化でき、送風機の配置や風門の設計をより合理的に行うことができます。
鉱山換気におけるCFD解析では、まず坑道形状や支保構造、設備配置を三次元モデルとして構築し、境界条件として送風機の風量や圧力、入口・出口条件、壁面粗さなどを設定します。そのうえで、気流の連続式や運動方程式、乱流モデルなどを数値的に解くことで、各点の風速・圧力・温度・濃度を求めます。例えば、切羽付近のCFD解析を行うことで、局所送風機からの吹出し風がどのように広がり、粉じんや排気ガスがどの経路で流れるかを詳細に把握できます。これにより、ダクト位置やノズル方向の最適化、風門・バランスバルブの配置見直しなど、実務に直結する改善策を検討できます。
CFD解析の利点は、実際の施工前にさまざまな設計案を比較検討できる点にあります。深部鉱山や大断面トンネルでは、送風機容量や換気ダクト計画に関わる投資が大きく、一度施工すると変更が困難です。CFD解析を用いて複数の換気案を比較すれば、同じ送風機容量でも風門やダクトの配置を工夫することで風量分布を改善できる場合や、わずかな追加設備で安全性を大きく向上できる場合などを事前に見極められます。また、異常時のガス拡散や煙の動きなども模擬できるため、防災計画の検討にも役立ちます。
一方で、CFD解析を有効に活用するには、解析結果を実測データと比較し、モデルの妥当性を検証することが重要です。現場での風速測定や圧力測定、ガス濃度測定の結果をフィードバックすることで、モデル精度を高め、現実に即した解析が可能になります。送風機メーカーや換気エンジニアリング企業では、CFD解析と現場実績を組み合わせたノウハウを蓄積し、鉱山換気システムの設計・改善に応用しています。CFD解析は、送風機と換気設備を単体で見るのではなく、鉱山全体の気流を総合的に評価し、より安全で省エネな換気システムを実現するための重要な技術です。
