化学工業用送風機は、酸性ガス・アルカリミスト・有機溶剤蒸気・反応ガスなど、化学プロセスで発生する多様なガスを安全かつ効率的に搬送するために設計された送風機です。ガスの組成や温度、湿度、腐食性の強さはプロセスごとに大きく異なるため、化学工業用送風機には高い耐食性と信頼性、そしてプロセス条件に合わせた柔軟な設計が求められます。鉱山分野でも、鉱石の湿式精錬や浸出プロセス、排水処理設備、薬品貯蔵設備などで化学工業用送風機が使用されており、鉱山と化学プラントの境界領域で重要な役割を果たしています。
典型的な用途として、スクラバー・吸収塔・ストリッピング塔・酸化炉・乾燥装置・反応器などに接続された排ガスラインに、化学工業用送風機が配置されます。これらの装置からの排ガスには、酸・アルカリ・SOx・NOx・有機成分・ミスト・粉じんなどが含まれることが多く、送風機内部における腐食や堆積を考慮した設計が必要です。遠心送風機は高静圧に対応しやすく、長距離ダクトや高抵抗装置を含む排ガスラインに適しています。一方、一部のプロセス換気や局所排気では、軸流送風機や屋上換気ファンが用いられることもあります。
化学工業用送風機の材質選定では、まずガス組成と温度、露点、濃度を正確に把握することが重要です。ケーシングと羽根車には、SUS304/SUS316Lなどのステンレス鋼、ニッケル系合金、FRP、樹脂ライニング鋼板などが用途に応じて採用されます。特に酸ミストや塩素系ガスを扱う場合には、局部腐食を防ぐためにライニングやコーティングを組み合わせることが有効です。また、溶剤蒸気や可燃性ガスを扱うエリアでは、防爆仕様の化学工業用送風機を採用し、点火源抑制と静電気対策を行う必要があります。インバータ制御を導入することで、プロセス負荷や生産量の変動に応じて風量・静圧を柔軟に調整しながら、省エネ運転を実現できます。
運用・保守の観点からは、化学工業用送風機は腐食や堆積による性能劣化を常に意識した管理が重要です。定期的な内部点検により、ケーシングや羽根車の腐食状態、堆積物の有無、シール部や軸受周りへの漏えいを確認し、必要に応じて洗浄や補修を行います。腐食速度を把握するために肉厚測定を行い、寿命予測と交換計画に反映させることも有効です。振動や温度、モータ電流値の常時監視により、軸受損傷やバランス不良などの異常を早期に検知できます。適切な材質選定と予防保全を組み合わせることで、化学工業用送風機は鉱山の化学処理設備から大規模化学プラントまで、腐食性ガスを扱うあらゆる現場で安全かつ信頼性の高い換気・排ガス処理を支え続けます。