強制逆風送風機は、通常運転時とは逆方向に通気を行うことができる送風機であり、鉱山やトンネルなどの地下空間における非常時換気計画において重要な役割を担います。火災発生時やガス異常時には、煙や有毒ガスを作業員の避難方向とは反対側へ強制的に押し出す必要があり、そのために通気方向の切り替えが求められます。強制逆風送風機は、正転運転による通常通気に加え、逆転運転や逆設置構造によって逆風運転を可能とし、緊急時に迅速な換気パターン変更を実現します。
鉱山向けの強制逆風送風機は、主に主換気設備や大容量局所換気設備として設計されます。軸流型送風機では、羽根車の形状とケーシングの対称性を考慮し、正転・逆転の両方向で安定した風量と静圧が得られるようにプロファイルを最適化します。また、逆風運転時に効率が大きく低下しないよう、羽根角度やガイドベーンの構成を工夫することが重要です。構造面では、逆転時の軸方向荷重や振動を考慮した軸受設計が求められ、駆動系や軸シール部にも十分な信頼性が求められます。防爆が必要な炭鉱では、防爆電動機と防爆制御盤を組み合わせた仕様が採用され、非常停止や非常運転切替の制御ロジックも安全側に設計されます。
強制逆風送風機を有効に機能させるためには、事前の換気計画とシミュレーションが不可欠です。通常運転時の通気パターンだけでなく、火災シナリオやガス異常を想定した複数の非常時通気パターンを検討し、それぞれのケースでどの送風機を正転または逆転させるか、どの風門を開閉するかを明確にしておく必要があります。鉱山では通気計算やシミュレーションを用いて、強制逆風運転時の風量・風速・圧力分布を評価し、避難経路に煙や有毒ガスが流入しないよう設計します。トンネル防災換気においても、車両火災時の煙制御を目的に、ジェットファンと組み合わせた強制逆風運転が検討されます。
運用・保守の観点からは、強制逆風機能が非常時に確実に作動することを保証するため、定期的な試験運転と点検が重要です。通常運転だけでなく、計画的に逆風試験を実施し、逆転時の電流・振動・温度・風量を確認することで、設備の健全性と制御システムの信頼性を評価します。点検では、羽根車の摩耗や汚れ、軸受の状態、制御回路の接点やリレー、非常操作盤の表示などを詳細に確認します。強制逆風送風機は、実際の非常時には作業員の命を守る装置となるため、日頃からの計画的な保守と訓練を通じて、その性能を最大限に引き出すことが求められます。