送風機事故は、鉱山やトンネル、地下工事現場における換気システムの中で最も重大なリスクの一つです。主扇や局所送風機が突然停止、破損、性能低下を起こすと、坑内のガス濃度上昇や粉じん蓄積、温度・湿度上昇など、多くの二次的危険を引き起こします。特に炭鉱では、メタンガスと粉じんが同時に存在する環境で送風機事故が発生すると、爆発リスクが急激に高まり、作業者の退避や設備の停止を含めた緊急対応が必要になります。そのため、鉱山換気計画では送風機の選定や設置だけでなく、事故発生時の対応手順やバックアップ体制まで含めて検討することが求められます。
送風機事故の原因は多岐にわたりますが、代表的なものとして、羽根車の疲労破壊、軸受の焼き付き、振動異常の放置、異物混入による損傷、電動機の絶縁劣化や過負荷、電源系統トラブルなどが挙げられます。鉱山用送風機は、大風量・高圧力で長時間連続運転されることが多く、適切な保守が行われていないと部品の疲労が蓄積し、最終的に事故として顕在化します。また、防爆型送風機では、防爆構造の損傷や端子箱の不完全な締め付けなどが引火源となるおそれもあり、厳格な保守基準が求められます。局所送風機では、ダクトの折れや詰まりによる過負荷運転が事故の引き金になるケースも少なくありません。
送風機事故の被害を最小限に抑えるには、事前のリスク評価と冗長設計が重要です。主扇の場合、二重系統や予備機の設置、逆風運転対応構造、緊急停止時の自動ダンパ制御などを導入することで、事故時にも最低限の換気機能を維持できるようにします。局所送風機では、複数台配置や換気経路の多重化、切羽ごとの緊急避難経路の確保が有効です。また、振動モニタリングや温度監視などのオンライン監視システムを導入し、軸受異常やアンバランスなどを早期に検知して計画停止・計画整備へつなげることも、送風機事故を未然に防ぐうえで非常に効果的です。
さらに、送風機事故の教訓を今後の安全対策に活かすためには、発生後の詳細な原因解析と情報共有が欠かせません。羽根車破損の破面解析や軸受状態の調査、振動データ・電流波形の再解析などを通じて、設計上・運転上・保守上の問題点を洗い出し、仕様改善や保守周期見直しにつなげます。また、事故事例を社内教育や安全講習に組み込み、現場作業者や保守担当者が警戒すべき兆候や異常サインを具体的に理解できるようにすることも重要です。鉱山用送風機における送風機事故対策は、単一設備の問題ではなく、換気システム全体と安全文化を含めた総合的な取り組みとして位置づける必要があります。