耐食軸流送風機は、酸・アルカリ・塩分・化学薬品ミストなどを含む腐食性雰囲気中で長期にわたり安定運転するために専用設計された軸流送風機です。一般的な炭素鋼製送風機を腐食性環境に使用すると短期間でケーシングや羽根車が損耗し、性能低下や漏えい、最悪の場合は破損につながります。これに対し、耐食軸流送風機はステンレス鋼や耐食合金、FRPライニング、特殊防食塗装などを適切に組み合わせることで、鉱山排ガス処理設備や化学工業プラント、沿岸部の換気設備など、過酷な環境下でも信頼できる大風量通風を提供します。
鉱山分野では、選鉱プロセスや排水処理設備、硫黄成分を含む排ガス処理ラインにおいて、腐食性の高い雰囲気が発生することがあります。こうしたエリアで軸流送風機を主換気や補助換気に用いる場合、耐食仕様とすることで、坑内空気の更新と有害ガス希釈を安定して行うことができます。また、地上設備においても、酸性ミストが発生するスクラバーの上流・下流や、化学薬品を扱う倉庫・ポンプ室・薬液タンク周辺の換気に、耐食軸流送風機が活用されます。大風量・低~中静圧を得意とする軸流形式は、広い空間や長いトンネル形状の通路に新鮮空気を効率よく供給するのに適しています。
耐食軸流送風機の設計では、搬送するガスの組成・温度・濃度・露点を正確に把握し、最適な材質と構造を選定することが重要です。ケーシングと羽根車にはSUS304/SUS316Lなどのステンレス鋼や耐食鋼を採用し、特に腐食が激しい部位にはライニングや厚膜防食塗装を施します。海塩を多く含む沿岸鉱山や港湾施設では、塩害対策として耐塩塗装や防錆仕様を強化し、モータや電装部の保護等級を高めることが有効です。必要に応じてブレード角度可変機構やインバータ制御を組み合わせれば、腐食性雰囲気下でも換気量を柔軟に調整しながら省エネ運転を行うことができます。
保守・運用の面では、耐食軸流送風機であっても定期的な点検と洗浄が不可欠です。腐食や堆積物が進行すると、羽根車のバランスが崩れ、振動や騒音の増加、軸受負荷の上昇につながります。そのため、運転データ(電流値・温度・振動など)を記録し、トレンド変化から異常兆候を早期に把握することが大切です。腐食状況に応じた肉厚測定や塗膜状態の確認を行い、計画的な補修・部品交換を実施することで、耐食軸流送風機は鉱山・化学工業・沿岸産業における腐食性環境下の換気・排風システムを長期にわたり安定して支えます。