鉱山用通気ファンとは?
鉱山用通気ファンは、坑内通気ファンとも呼ばれ、坑内へ新鮮な空気を供給し、有害ガスや粉じんを排出し、熱と湿気を除去するための大型産業用ファンです。 現代の炭鉱、金属・非金属鉱山、ならびにトンネル工事において、通気システムの中核となる最重要の動力設備の一つです。
合理的に設計・運用された坑内通気ファンがなければ、坑内には短時間でメタン、一酸化炭素、二酸化炭素、NOx、発破煙、ディーゼル排気などが蓄積し、粉じんと熱も十分に排出できません。 その結果、ガス爆発、窒息、中毒といった重大な安全リスクが高まるだけでなく、作業環境の悪化や職業性疾患のリスク増大にもつながります。
1. なぜ鉱山用通気ファンは坑内安全に不可欠なのか?
坑内通気システムは本質的に、通気方式・通気網・通気動力設備の三要素から成る統一体です。入気坑道、排気坑道、入気立坑・排気立坑、風門、風窓、送風ダクトなどの通気施設に加え、 主扇風機、増圧ファン、局所扇風機といった通気設備が連携し、給気・排気・風量配分を実現します。

図:簡略化した坑内通気システムの模式図。地上の主扇風機は入気立坑付近に配置され、坑内の増圧ファンと局所扇風機が採掘・掘進作業面へ送風し、排気は排気坑道と排気立坑を通って地上へ排出されます。
鉱山用通気ファンがシステム内で担う代表的な役割は次のとおりです。
坑内へ十分な新鮮気流を供給し、作業員の呼吸と設備の冷却需要を満たします。
坑内で発生するメタン、一酸化炭素、発破煙、ディーゼル排気を希釈し、濃度を法規制の限度以下に保ちます。
一定の風速で粉じん、煙、熱を搬出し、死角や滞留域の形成を防ぎます。
ガスやCOなどの自動監視システムに対して、制御可能・調整可能な気流条件を提供し、需要に応じた送風と省エネ運転を実現します。
関係する安全規則・規程および各地域の関連基準に基づき、鉱山事業者は完全で信頼性の高い通気システムを構築し、主扇風機、局所扇風機、通気施設を適切に配置しなければなりません。 また、通気システムがあらゆる運転条件下で継続的かつ安全に稼働できることを確保する必要があります。
2. 役割と設置位置による鉱山用通気ファンの分類
実務では、ブランドや型式よりも、役割と設置位置によって鉱山用通気ファンを分類することが一般的です。
2.1 主扇風機

図:地上の主扇風機ステーション。坑内に必要な風量と風圧を供給する、通気システムの中核動力源。
主扇風機は通常、地上の坑口や斜坑道出口付近に設置され、坑内通気システム全体の主要な動力源となります。 坑内全体に必要な風圧・風量の大部分を供給し、「鉱山の肺」「通気システムの心臓」とも言える存在です。
主扇風機の一般的な特徴:
地上のファンハウスまたはコンクリート基礎上に設置し、吸込・吐出側に収縮管、拡散器、消音器を備えます。
「常用1台+予備1台」や「常用2台+予備1台」などの方式を採用し、システム信頼性を高めます。
高電圧・大出力モータを組み合わせ、近年はインバータ制御による需要に応じた送風・省エネ運転が増えています。
必要に応じて反風運転に対応し、火災など災害時に気流方向を切り替えて排煙に対応します。
2.2 増圧ファン

図:坑内坑道に配置した増圧ファン。鋼製風筒と組み合わせて局所の静圧を高め、気流を遠距離の作業面へ押し出す。深部や高抵抗区域の増圧通気に用いられます。
増圧ファンは、坑内の通気網内に設置され、主扇風機と直列に運用されます。 主に深部や高抵抗区域で主扇の能力不足を補い、遠距離の採区へ増圧送風するために使用されます。
ただし、増圧ファンは通気網の圧力差分布を変化させるため、設計・運用が不適切だと、採区ごとの風量が乱れたり、気流の逆流が発生したりする可能性があります。そのため、多くの基準・規程では、増圧ファンの適用条件、調整方法、安全監視に関して厳格な要求が設けられています。
2.3 局所扇風機

図:局所扇風機を柔軟風筒と組み合わせ、新鮮気流を掘進作業面へ直接送り込み、穿孔粉じん、発破煙、ディーゼル排気を希釈します。採掘・掘進作業面で一般的な配置方式です。
局所扇風機は、採掘・掘進作業面付近に配置される小~中型の鉱山用通気ファンで、行き止まり坑道、掘進先端、作業面、局所の坑内室へ送風します。 通常、鋼製または柔軟な送風ダクトと組み合わせ、新鮮気流を作業地点へ直接届けます。
局所扇風機が特に多用される場面:
坑道の掘進先端、採炭作業面、回採坑道の局所通気。
ポンプ室や変電室などの坑内室といった局所空間の補給風または排気。
粉じん濃度や温度を重点管理する設備区域(破砕機、積替え箇所など)。
3. 軸流式と遠心式の鉱山用通気ファン
空気の流れ方向と羽根車構造から、鉱山用通気ファンは大きく軸流式と遠心式の二種類に分けられます。
3.1 軸流式の鉱山用通気ファン
気流が羽根車の軸線方向に沿って吸込み・吐出されます。
低~中圧・大風量の運転条件で高効率を得やすい特性があります。
構造が比較的コンパクトで、可変ピッチ羽根や可変回転数で運転条件の変化に対応することが多いです。
金属・非金属鉱山や一部の炭鉱において、主扇風機、局所扇風機、トンネル通気ファンとして広く使用されます。
適用場面:
坑道が長く、抵抗が中程度で、大風量と高効率を重視する通気システム。
インバータ制御や羽根角調整により、需要に応じた送風と省エネ運転を実現したい鉱山。
反風運転の機能を備える主扇やトンネル排煙ファン。
3.2 遠心式の鉱山用通気ファン
気流は軸方向に吸い込まれ、羽根車内で90°向きを変えて半径方向へ吐出されます。
一般に中~高圧・比較的小風量の条件に適します。
羽根車強度が高く、ケーシングも堅牢で、粉じんを含む気流や高抵抗システムへの適応性が高いです。
深部坑道、高抵抗システム、または高い全圧が必要な場面に適します。
軸流式と遠心式の選定では、必要風量、システム総抵抗、設置スペース、騒音制限、エネルギー効率目標などを総合的に考慮し、 ファン性能曲線と通気網の抵抗曲線のマッチング計算によって決定するのが一般的です。
4. 鉱山用通気ファンの主要技術パラメータ
通気設計およびファン選定では、技術者は通常、次のパラメータを重視します:
風量 Q:定格条件でファンが供給する空気の体積流量。一般的な単位は m³/s または m³/min。
全圧 / 静圧:通気システム抵抗を克服するためにファンが生み出す圧力差。単位は Pa または kPa。
効率 η:空気動力と軸動力の比。効率が高いほど、長期運転のエネルギー消費は低くなります。

図:軸流式鉱山用通気ファンの性能曲線。横軸は風量、縦軸は静圧。効率等高線と、羽根角度または回転数ごとの特性曲線を重ね、通気網の抵抗曲線と合わせて運転点を決定します。
ファン特性曲線:風量に対する圧力・効率の変化曲線。通気網の抵抗曲線との交点で運転点を決定します。
出力と回転数:モータ定格出力とファン回転数は、風量・風圧に加え、直入れ始動、ソフトスタート、インバータ制御などの起動方式に合わせて適合させる必要があります。
騒音と振動:消音器、防振基礎、フレキシブル継手などで騒音・振動を低減し、設備と作業員の健康を保護します。
5. 安全・防爆・法規要件
鉱山用通気ファンは坑内の空気質と安全に直結するため、関係する安全規則・規程や『炭鉱安全規程』等の基準によって厳格に管理されています。
主なポイントは以下のとおりです:
防爆・防火:ガス炭鉱や爆発危険性のある金属鉱山では、主扇・局所扇風機に防爆形モータおよび防爆電気機器を採用し、防火・逆火防止装置を組み合わせることが一般的です。
信頼性と冗長設計:主扇は「1運転1予備」または「2運転1予備」などの冗長構成が望ましく、重要部位に状態監視と故障予兆保全を導入します。
監視とスマート制御:近年の坑内通気では、風量・風圧・ガス・CO・ファン状態のオンライン監視を行い、インバータ制御と最適化アルゴリズムにより、需要に応じた送風と省エネ運転を実現する例が増えています。
停風・反風運転の管理:主扇の停止、反風運転、切替時には、作業手順と承認プロセスを厳格に遵守し、気流の乱れや危険ガス蓄積を防止します。
6. 鉱山用通気ファンの代表的な用途シーン
鉱山用通気ファンは、坑内通気を必要とするほぼすべての現場で使用されます:
炭鉱:主扇が坑内全体の通気を担い、局所扇風機が掘進先端、採炭作業面、回採坑道の通気を担当します。
金属・非金属鉱山:大出力の軸流主扇が斜坑道・立坑システムへ送風し、局所扇風機が採掘場、区画、坑内室の通気を担当します。
トンネル・地下工事:道路・鉄道・導水トンネルの施工通気では、鉱山の局所通気に近い構成のトンネル通気ファンと送風ダクトシステムが用いられることが多いです。
粉じん・熱害対策:集じん、噴霧、空調などと組み合わせ、粉じん濃度低減、岩盤温度の管理、設備放熱の改善に用います。
7. 技術者はどうやって適切な鉱山用通気ファンを選ぶのか?
実務の観点では、標準的な選定プロセスは概ね次のとおりです:
通気需要の確定:採区規模、作業員数、機械設備台数、法規要件に基づき、坑内全体および各区画の必要風量を算定します。
通気網モデルの構築:坑道長さ、断面、支保形式、通気施設の抵抗を整理し、各支路抵抗とシステム抵抗曲線を算出します。
ファン形式と配置計画の選定:軸流主扇か遠心主扇か、増圧ファンが必要か、局所扇風機の配置方式、冗長構成を決めます。
運転点の照合:ファン特性曲線と通気網の抵抗曲線を重ね、運転点が高効率域にあること、また風量・風圧の余裕を確保できることを確認します。
法規・安全要件の適合:防爆等級、騒音限度、監視監測構成、停風・反風運転管理が規程に適合するかを確認します。
省エネと高度化を考慮:高効率モータ、インバータ制御、スマート通気システムを優先し、ライフサイクル全体のエネルギー消費を低減します。
8. まとめ
本質的に、鉱山用通気ファンは単なる「大きなファン」ではありません。坑内通気システムの中核動力源として、 坑内へ新鮮気流を送り込み、有害ガスと粉じんを希釈し、温度と湿度を制御することで、鉱山の安全操業と生産性向上に不可欠な役割を担います。
地上の主扇風機、坑内の増圧ファン、作業面にサービスする局所扇風機のいずれであっても、規程に基づく科学的設計、適切な選定、継続的な保全を徹底すれば、 鉱山のライフサイクル全体にわたり安定運転が可能となり、安全・省エネルギー・高効率な現代鉱業を支える確かな通気基盤となります。
参考文献・関連資料
教材・ハンドブック
NIOSH: Handbook for Dust Control in Mining(PDF)坑内通気を含む粉じん対策の基本原理と、現場で使える対策手法を体系的に整理した公的ハンドブック(英語)。
NIOSH: Dust Control Handbook for Industrial Minerals Mining and Processing, Second Edition(PDF)鉱山・採石分野の粉じん管理を、通気、集じん、散水などの観点でアップデートした第2版(英語)。
国家法令・規制と監督当局の解説(日本国内)
e-Gov法令検索:鉱山保安法鉱山における危害防止や鉱害防止の基本枠組みを定める根拠法。通気・保安体制の位置づけ確認に有用。
e-Gov法令検索:鉱山保安法施行規則坑内の保安・衛生・点検など運用面の要求事項を確認でき、通気管理や設備運用の整理に役立つ。
e-Gov法令検索:鉱業上使用する工作物等の技術基準を定める省令鉱山設備に関する技術基準の確認に使える一次情報。風機設備や関連施設の要求確認の入口として有用。
経済産業省:鉱山の安全(鉱山保安)鉱山保安の政策・支援ツール・統計年報等への導線がまとまった公式ポータル。制度全体像の把握に便利。
国内論文・技術記事(日本国内)
J-STAGE:鉱山跡地坑内の自然通気特性と熱環境について(第1報)自然通気圧、通気計測、坑内気象など、坑内の通気現象を日本の研究として参照できる(日本語/一部英語要旨)。
J-STAGE:主要通風路に接したキャビティ内の漏えいガスの対流拡散挙動坑内・地下空間でのガス拡散と通気の関係を扱う論文。通気設計の背景理解に有用(日本語)。
国際的なガイドライン・技術資料
MSHA: Mine Ventilation Plan Review Procedures(PDF)換気計画(Ventilation Plan)を審査するための手順・観点をまとめた監督当局資料(英語)。通気計画書の構成整理に役立つ。
WorkSafe Western Australia: Underground Ventilation(PDF)地下鉱山の通気設計、監視、ガス管理などをまとめた実務ガイダンス(英語)。
IFC: Environmental, Health, and Safety Guidelines for Mining(PDF)採掘におけるEHSの基本要求を整理した国際ガイドライン。通気、粉じん、有害物質管理の位置づけ確認に有用(英語)。
背景・基礎情報
産業保安監督部(関東東北):鉱山保安の業務と組織鉱山保安の目的・監督の枠組みを平易に説明。通気を含む保安全体を日本制度で理解するための背景資料。
産業保安監督部(関東東北):保安情報(リーフレット・ガイドブック)保安教育、事例、対策整理に使える公的資料への入口。社内教育や運用ルール整備の参考になる。